海外留学前に
まず、海外留学をすることが本格的に決まったのは2009年11月頃でしょうか。
留学先になるMcGill大学カルシウム研究室のDr. Geoffrey N. Hendyと留学中の給料と留学後の研究プロジェクトについて、メールにてやりとりをしました。
給料については、McGill大学の最低賃金である年間30,000カナダドルは保証するが、fellowshipなどを獲得する努力をすることを約束。期間は2-3年。
実際に留学前にいくつかのfellowshipに応募し、ケベック州のFRSQというfellowshipをいただくことができました。
研究プロジェクトについては、現在Dr. HendyがカナダのCIHRからグラントをもらっているmeninの骨におけるin vivoの役割を研究するということ言われました。
海外留学中で僕のしたかったことは動物実験でしたので、これも同意しました。
日本での研究はすべて患者さんを対象とした臨床研究と培養細胞を用いたin vitroの研究でした。
留学中は動物実験をすることにより、研究手技を広げたいという思いがありました。しかも、Dr. Hendyの研究課題は遺伝子改変動物を用いた研究であり、僕がもっとも習いたいことであり、願ったり叶ったりでした。
人によってはこの段階から給料の交渉やプロジェクトについてのディスカッションが始まるようですが、かくして僕の留学前のボスとの交渉はなんなく終わりました。
研究を始めるための準備期間
今思えば実際に研究をスタートする前に、ぼーっとしていたもったいない時間が長かったように思います。
そう、ここカナダでは自分から動きださないと始まらないということです。
しかも何度も催促しないといけない。
僕の研究は遺伝子改変マウスを使った実験なので、まずはMcGill大学のAnimal Care Unitでの研修と試験のパスが必要なのです。
研修も試験もかなり容易なものでしたが、それでも不慣れな英語を駆使しての初めてのことであり、非常に緊張しました。
その後にはRadioactiveな実験をするための研修と試験などもあり、実際の自分の実験がスタートするまでは2-3ヶ月もあったでしょうか。
それまではテクニシャンの後を追い、マウスの扱い方やgenotypingの方法、ラボ内の機器の使い方などを習って過ごしました。
Menin project
内分泌疾患のひとつに多発性内分泌腺腫症1型という疾患があります。
MEN1遺伝子の異常のために多発性に内分泌腺(副甲状腺、下垂体、膵臓など)に腫瘍を形成する疾患であり、僕自身も1家系の患者さんを見させていただいたことがある疾患です。基本的には珍しい病気であり、人生でもそれほど多く経験することはないような疾患です。
そのMEN1という遺伝子は、核内タンパクであるmeninをコードしており、meninは内分泌腺のみならずどの他の多くの細胞でも発現していることが確認されています。
これまでの梶博史先生とDr. Hendyのグループが中心となり、meninの骨芽細胞での役割についてin vitroの研究がすでになされておりましたが、遺伝子改変マウスを用いてin vivoでの役割を研究することが僕の研究課題です。
すなわち、僕の研究はmeninの骨芽細胞特異的ノックアウトマウスの作成&解析、逆にmeninを過剰発現したトランスジェニックマウスの作成&解析により、meninの生体での役割を研究するということです。
つづく