2型糖尿病患者では動脈硬化リスクが著明に上昇している

糖尿病患者では動脈硬化リスクが著明に上昇していることが知られています。

健常者に比較して約3-5倍の心血管疾患の発症リスク上昇が報告されており、糖尿病患者における動脈硬化抑制をどのようにしていくか、なぜこれほどのリスク上昇があるのかについて検討をする必要があります。

 

大規模研究であるUKPDSでは糖尿病の治療のみでは大血管障害を完全に抑制できないことが明らかとなっていることから、糖尿病治療以外にも+αの治療・管理が必要であると思われます。従って、我々はその病態を検索し、治療・予防策を考えていくことが我々糖尿病専門医としての責務であると考えています。

 

私たちは、内分泌学的な観点から糖尿病患者における動脈硬化促進因子あるいは抑制因子の検討を行っています。

DHEA-S低下は閉経後2型糖尿病患者の動脈硬化に関与する

ヒトは加齢とともにホルモン環境が変化します。代表的なものは女性の閉経であり、menopauseと呼ばれます。閉経後は急速な女性ホルモンの減少・消失に伴い、骨粗鬆症や動脈硬化といった様々な疾患のリスクが高くなってきます。

 

加齢に伴う内分泌環境の変化には他にも、成長ホルモン系の低下(somatopause)、そしてadrenopauseと呼ばれる副腎からのDHEAの低下があります。

 

近年、副腎から全身へ分泌されるDHEAの加齢に伴う低下が、加齢に伴い発症頻度が増加する疾患と関連することが報告され、さらに寿命にも影響を与えることが示唆されています。

 

これまでに血糖コントロール不良の糖尿病患者では、血中DHEAが低下することが報告されています。一方、基礎的研究によりDHEAは動脈硬化形成を抑制することが報告されています。

我々は今回、2型糖尿病患者における血中DHEAと動脈硬化の関連性を検討するために、血中DHEA-Sと動脈硬化指標である脈波伝播速度(PWV)と頸動脈内膜中膜厚肥厚(IMT)の関連性を横断的に検討しました。

2型糖尿病閉経後女性(右図)、男性において、血中DHEA-Sと両動脈硬化指標との間には有意な負の相関を認めました。

 

このことは、血中DHEA-Sが低下すると動脈硬化が進むことを示唆する所見と考えられました。

 

しかし、DHEA-Sの低下には年齢や体格、血糖コントロールの影響を受ける可能性があるため、重回帰分析にてこれらの因子を補正して検討を行いました。

閉経後2型糖尿女性においては、年齢、糖尿病罹病期間、BMI、血圧、コレステロール、HbA1cにて補正した重回帰分析においても、血中DHEA-SとPWVの間にはβ=-0.18、IMTとの間にはβ=-0.25で有意に負の相関を認めることが示唆されました。

 

従って、2型糖尿病閉経後女性においても、血中DHEAの低下が動脈硬化促進に働いていることが示唆されます。

米国ではDHEAの重要性が考えられており、実際にDHEAサプリメントを購入することが可能となっています。一方で、我が国では未だ保険認可はされていません。従って、超高齢化時代を迎えた我が国日本においてもDHEAに焦点を当てた治療が求められると考えています。

 

 

本研究は、内分泌学会より優秀演題として高い評価を得ました。

我々は、今後の動脈硬化予防に向けて非常に重要な知見であると考えています。

ADMA高値は2型糖尿病の動脈硬化増悪因子である

Asymmetric dimethylarginine (ADMA)はタンパクがメチル化修飾を受け、生体内で産生される内因性のNOS阻害物質です。ADMAによりNO産生が抑制され、内皮依存性の血管収縮反応が惹起され、その結果、動脈硬化を促進すると考えられています。

また、これまでに高血糖状態ではADMAの代謝が低下することより、血中ADMAが上昇することも報告されています。

これまでにいくつかの研究により、血中ADMA上昇が動脈硬化、心血管疾患の発症の誘因になることが示唆されています。しかしながら、これまでに糖尿病患者におけるADMAと動脈硬化性疾患との関連性についての報告はありませんでした。

 

そこで、我々は2型糖尿病患者における血中ADMAと動脈硬化指標、心血管疾患との関連を横断的、縦断的検討を行いました。

2型糖尿病患者450名を対象に、まず心血管疾患(CVD)と血中ADMA濃度との関連性を検討しました。対象としてADMAの構造異性体であり活性を持たないSDMAも同時に測定しました。

 

CVD既往の有り群はなし群に比較して、ADMAが有意に高値であることを認めました(0.66±0.22 vs 0.59±0.20 μmol/L、p<0.01)。

 

さらに、年齢、性別、糖尿病罹病期間、BMI、収縮期血圧、LDL-C、HDL-C、eGFR、HbA1c、各種糖尿病薬剤・降圧薬・スタチン・アスピリン使用、現在喫煙の有無にて補正したロジスティック回帰分析にて、血中ADMAが1SD増加する毎にCVDのリスクは約7倍に増加することが明らかとなりました(右表)。

次ぎに、動脈硬化指標であるPWVと血中ADMAとの相関関係を検討しています。

左図に示すように、血中ADMAとPWVの間には有意な正の相関を認めました(r=0.21, p<0.0001)。

 

さらに、各交絡因子にて補正した重回帰分析においても有意な血中ADMAとPWVの負の相関関係が認められました(β=0.14, p<0.01)。

さらに我々は2型糖尿病患者の6ヶ月間の観察研究にて、血中ADMAと動脈硬化指標の進展との関連性を検討しました。まず血中ADMA濃度に従い、3群に分けて検討を行いました。

右図に示すように、ADMA低値群に比較して高値群では有意にIMTが増加することが認められました。

 

次ぎに、動脈硬化リスク因子にて補正した重回帰分析にて、血中ADMAとIMT増加との関連性を検討しました。年齢、糖尿病罹病期間、BMI、収縮期血圧、LDL-C、HDL-C、eGFR、HbA1cにて補正した重回帰分析にて、血中ADMAとIMT変化との間には有意な正の相関を認めました(β=0.35, p<0.03)。

これらのことから、2型糖尿病患者において他の動脈硬化リスクとは独立してADMA高値は動脈硬化増悪に関連することが示唆されました。